2019年に発生した新型コロナウイルスの流行によって、生活のあらゆる場面でデジタルの活用が定着してきました。ECも日本での流行が始まった2020年以降利用が拡大し、「ニールセン オンラインショッピングレポート2021(Nielsen Online Shopping Report 2021)」によると、インターネット利用者の30%が、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令された2020年4 月以降に、オンラインショップの閲覧や購入が増加していたことがわかりました。マーケティング担当者には、オンライン購入を拡大させるために直接売上につながるコンバージョン目的のマーケティングが魅力的に映るかもしれません。実際にコンバージョン目的のマーケティングは予算に対する成果も見えやすく、目の前の売上というROIを達成するために活用する企業も多いことでしょう。しかし、コンバージョン戦略に重点を置きすぎると、長期的な成長への鍵となる潜在的な顧客を逃してしまうリスクにも繋がります。アッパーファネルマーケティングはより多くの消費者にブランドを認知してもらい、長期的なブランド・エクイティを構築していくことが目的となりますが、ニールセンの知見によると、認知や検討などのアッパーファネルのブランド指標が 1 ポイント上昇すると、売上が平均 1%増加することが分かっています。つまり、ブランド認知や検討などのブランド指標の改善を重点においたマーケティング戦略は、売上を確保する上でも重要な役割を果たします。
EC利用が拡大するのとともに、以下2つの傾向からアッパーファネルマーケティングの重要性は今後さらに増していきます。消費者が新しいブランドや製品と接触する場所は、性年代などの属性やライフスタイル、興味関心などで大きく異なり、日々変化しています。ブランド認知や検討などのブランド指標を向上させ、長期的な売上達成を実現するためには、ターゲットのメディア利用状況や動向を正しく把握し、ターゲットに適したコミュニケーションプランを考案することが今後更に重要になります。
1.オンラインでは、今まで購入したことのないブランドを購入する割合が高い
米国の消費財(CPG)市場では、Nielsen Commspointによると、実店舗で「過去に購入したことのないブランド」を購入する割合はわずか4.3%だったのに対して、オンラインでは、12.1%と約3倍になっていました。日本市場も同様に、オンラインでは過去購入したことのないブランドを購入する傾向が見られました。化粧品を実店舗で購入した人では13%が過去に購入したことのないブランドを選択したのに対し、オンライン購入では過去購入したことの無いブランドを購入した人は22%にのぼります。日用品の場合でも、実店舗の7%と比べてオンライン購入では19%と、倍以上になっていました。特に若年層の化粧品の購入においては、オンラインで新しいブランドを購入する可能性は高く、実店舗購入と比べると新しいブランドを購入した人は約2倍になります(図表1)。
実店舗と違い無限に棚があるとも言えるオンラインショップで新しいブランドと接するようになると、それまで定期的に購入していたブランドを買わなくなる可能性もでてきます。EC利用の拡大によって消費者が実店舗で過ごす時間が少なくなると、その分商品やブランドロゴに触れる機会が減少することになります。ブランドと接触する機会が減れば、その分ブランド・エクイティ構築の機会を失うことを意味します。つまり従来は実店舗で行われていたようなブランド体験をオンライン上のマーケティング活動で補う必要性が高まっています。消費者に継続的に自社ブランドを購入し続けてもらうためにも、マーケティング担当者としては、商品購入のニーズが現れた際に真っ先に想起されるよう、事前にアッパーファネルマーケティングを通して認知を高めておくことが重要になるでしょう。
2.実店舗での購入においてもオンラインの重要性が増加
購入場所がオンラインに移行しているだけでなく、実店舗での購入においてもオンラインは重要な情報源となっています。例えば化粧品では、実店舗で商品を購入した場合、その商品を実店舗で認知したという人が36%を占める一方で、同程度の34%もの人がオンラインで認知していました。
検討段階においても、実店舗で化粧品や日用品を購入した人の10%前後が、検索サービスやオンラインショップなどのオンラインサービスを活用しています(図表2)。ターゲットの属性や商品カテゴリーによって商品の購入検討をする際に必要とされる情報は異なりますが、店舗で実際に手にとって商品の使用感を確認する代わりに、オンラインで代替しているケースもあるでしょう。例えば、若年層は購入検討する際に動画による製品説明を参考にする傾向があり、また女性では商品の口コミが重要な役割を持っています。実店舗での体験だけに頼ることができなくなった環境では、このようなブランド体験をオンラインで提供し、購入の意思が現れた時に真っ先に想起してもらえるように潜在的な顧客にアプローチすることが、自社ブランドを選択してもらうための一つの手段となります。
さらに、同じ商品やターゲットの属性によって活用されるオンラインプラットフォームも異なることから、マーケティング担当者は自社ターゲットの動向を理解し、使用するプラットフォーム見直すことも重要です。例えば、18-34歳では30%が商品の購入を検討する際にTwitterやYouTubeを活用しているのに対し、35歳以上では検索エンジンやオンラインショップを活用する傾向があります(図表3)。つまり、ターゲットが商品を検討する際に求める情報が異なるのに合わせて、ターゲットにアプローチできる適切なプラットフォームを見直す必要があります。ターゲットのメディア利用状況を把握し、ソーシャルメディアプレゼンスを高めるべきか、それともSEOに力を入れるべきか、認知や検討などの指標を最大化するためにどのようなプラットフォームを活用すべきかといった判断ができます。そして、これらの特徴を正しく理解し、自社商品の情報がターゲットに適した内容やフォーマットで、最適なプラットフォームで提供されているかを再確認する必要があるでしょう。
購入体験のデジタル化は、実際に商品が購入される場所だけではなく、購入に至るまでのプロセスにも影響を及ぼしています。今までもオンラインショッピングの浸透が進んでいた一方で、新型コロナウイルスの流行によって、その利用は更に加速しました。オンラインで商品を購入する際に、消費者は過去に購入したことのないブランドを選択する可能性が高くなります。また、実店舗の購入においても、オンラインの情報源を活用して消費者は様々な情報を収集し、ニーズに合わせて日々選択を繰り返しています。無限にある情報量とメディアチャネルの断片化が進むにつれ、ブランドを目立たせるための手段も様々で一つの正解はありません。長期的な成長を実現するためには、オンラインショップでのプレゼンスを高める場合でも、動画サービスやSNS広告を活用する場合でも、まずはターゲットの特徴を正しく理解し、その情報をもとにブランド認知や検討などの指標を改善するための戦略を見直す必要があるでしょう。